
私は2001年にブラジル産プロポリスそのものを見る機会があり、実際に素晴らしいものであることを実感しました。
プロポリスは、巣箱の防御のためにミツバチが習性でその隙間を埋めているもので、抗菌作用があるといわれる成分を含んでいます。
現在、ヨーロッパや南北アメリカ、アジア、アフリカなど、世界各地で養蜂業者がミツバチを飼育しています。したがって、その風土的地理的相違によってプロポリスの成分は一定のものではないことは容易に推測されます。
私は和漢薬研究所で漢方薬や伝承薬を研究してきましたが、複合の成分が一緒になって作用を起こすようなものの有効性を検証するのは非常に難しいところがあります。
プロポリスはいろいろな成分が複雑に絡み合っていますので、まず最適な動物実験法の確立とその有効成分について最新の分析機器を使って分離し、活性成分を調べてみようと考えました。
キナ酸誘導体がプロポリスの活性成分
日本に輸入されているプロポリスのほとんどがブラジル産です。そこで、まず私たちはブラジル産プロポリスの研究から始めました。プロポリスのグレード(等級)の高さについては、濃緑色、香り、春夏に採取したもの、ある地域で採れたもの、といった経験的な等級の判別法があります。科学的には、総フラボノイド、UV、花粉量といった分析もありますが、私たちは科学的な観点からさらに詳しくやってみようと思いました。
実際に、ブラジル産の6種の等級品を取り寄せ、経験的な判別と科学的な判別との違いをみることにしました。6種のサンプルは、UG(UltraGreen)、SG(SuperGreen)、CPI(ColectordePropolisInteligent)、BL(Blend)、PG(ParanaGreen)、Br(Brown)で、これを分析し、比較しました。
次に、プロポリスの活性成分はどういうものか、どれくらいの含量か、ということを検討しました。まず水エキスですが、キナ酸にカフェオイル基が結合した化合物がたくさん含まれていることが分かりました。メタノール抽出エキスでは、ブラジル産プロポリスから27種類の成分を取り出しました。
また、抗酸化作用を評価する指標として、ラジカル消去能を測定しました。ラジカル消去作用については、5種の化合物(5、9、19、20、23)が50%以上のラジカル消去作用があるということが分かりました。
まとめますと、27種類の成分をプロポリスから取り出したところ、ラジカルの消去作用で、このうちの5つが50%の消去率であることが分かりました。
新芽にキナ酸誘導体が多く含まれる
次に、成分を一斉に分析して、その相対的な含量が分かれば、プロポリスの活性を証明する有効な手段になると考え、実験を行いました。 2000年に、私どもの研究所でLCマス分析の機器を入れることができましたので、これでプロポリスの活性成分を分析しました。
ブラジル産プロポリスのメタノールエキスから単離した27種の化合物、水エキスから単離した4種、その他文献でプロポリスに含まれていると報告されている化合物10種の合計41種の標準物質を使い、LCマスの分離分析条件を検討し、最適の条件を見出すことが出来ました。次にこの条件を利用して各々の等級品のエキスについてLCマス分析を試みました。
ブラジル産プロポリスの各抽出エキスを検討した結果ですが、横軸はUG、SG、CG、CPI、BL、PG、Brという各等級品で、縦軸は化合物の番号です。メタノールおよび水エキス中の各成分の相対強度をグラフで示しています。
また、水エキス中の活性成分のキナ酸のカフェオイル類についても、等級の高いUG、SG、CPIに非常に含量が多いことが分かりました。このように実際にブラジル産プロポリスについては、LCマス分析でかなりきれいに分離分析して様子が分かりました。
ペルーとか中国産については、それぞれの地域の植生でプロポリスの含有成分も違うことが予想されましたが、やはりブラジル産プロポリスの成分と全く異なり、ほとんどの成分が同定できませんでした。水エキスについても同様に同定できませんでした。ブラジル産プロポリスの水エキスでは4種のキナ酸のカフェオイル誘導体は同定できましたが、他のものは同定できませんでした。
2001年10月29日、私たちはブラジルのヴィソーザ大学に行き、実際に養蜂業者のプロポリスの採取方法を見る機会がありました。そこで、巣箱の周辺の植物を押し葉標本にして持ち帰りました。
バッカリスドラキュリフォリアという植物の花部、新芽、葉部、茎部をそれぞれ水とメタノールで抽出しました。その結果、新芽の水エキスに他の部位よりもキナ酸のカフェオイルエステル類誘導体の化合物(28、31、32)が非常にたくさん含まれていることが分かりました。
また、メタノールのエキスでも、やはり新芽にジテルペン類が非常に多く、その他フラボノイド、桂皮酸誘導体など、ブラジル産プロポリスのメタノールエキス中の27種の化合物の中で24種の化合物が新芽部分のエキスから検出されました。この事突からもバッカリスドラキュリフォリアの新芽部分がブラジル産プロポリスの重要なソースであり、起源植物であることが、今回初めて明らかとなりました。
ミセル化抽出、アルコール抽出と水抽出の両方の成分を抽出
プロポリスの抽出法については、アルコール、水、ミセル化でそれぞれ検討しました。アルコール抽出では当然、アルコールで抽出される成分がとれます。しかし、水抽出ではそうした成分は非常に少なく、アルコールで抽出されるものがほとんど抽出できないことが分かりました。
ミセル化抽出では、アルコールで抽出された成分がほぼ検出されました。また、水で抽出されるキナ酸誘導体もミセル化でしっかりと抽出されることが分かりました。
また、私たちはブラジル産プロポリス以外の研究もしました。オランダ産のプロポリスはポプラを起源植物としていて、その中にはCAPE(カフェイン酸のフェネチルエステル)が非常にたくさん含まれていることが分かりました。
日本のプロポリスの研究論文に世界の科学者が注目
私はビーメディシンということで長年やってきました。ジャーナル・ナチュラルプロダクトでは、私たちが1998年に報告したブラジル産プロポリスの論文が、1998年から2007年の10年間に引用回数の多い論文の中で上位1%、ベスト20に入っていると取り上げられました。
このジャーナルのダグラス・キングフォンというチーフエディターも、10年間の論文の中で、注目度が高く、よく引用された論文ベスト20の中に入っているといっています。日本の論文では唯一私たちの論文だけだと思いますが、このように私たちのプロポリスのリサーチワーキングが世界から注目されています。
2003年にプロポリスについてまとめた本を出版しました。私たちの研究室では、現在も、インドネシア、ミャンマー、コンゴ、ネパール、中国のメンバーがプロポリスの研究を行っています。これからも、科学的なエビデンスに基づいたプロポリスの研究を継続していきたいと考えております。